東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2478号 判決
次に右一のうち本件譲渡契約については被控訴人の株主総会の特別決議がされていないから無効であるとの主張について判断する。
被控訴人は三条工場、長岡工場、高崎工場の三工場を所有し、タバコ製造機械、小型ディーゼルエンジン等の製造販売を業とし、右のうち長岡工場は小型ディーゼルエンジンの専門工場であったものであり、被控訴人は右長岡工場を昭和三四年二月二八日現在の状態のまま、人員を含め積極消極のすべての財産(但し土地・建設及び機械設備等の固定資産を除く、控訴人が右財産を譲り受けた後、そのまま同所で営業ができるように被控訴人は控訴人に対し右固定資産を賃貸した)を控訴会社設立発起人増田勝治に譲渡したものであることは、前記のとおりであるから、右譲渡は被控訴人に属した営業すなわち機能的組織的財産の重要なる一部の譲渡であるといわなければならない。従って、これについては商法二四五条、三四三条により被控訴人株主総会の特別決議を経なければ、譲渡は効力を生じない。そして、同条違反については、法律上の利害関係を有する者はその無効を主張することができると解すべきところ、控訴人は右譲渡によって長岡工場の前記財産の所有権を取得したものとされるのであるから、右無効を主張することができる。
しかしながら、前記認定事実によれば、被控訴人としては長岡工場の非採算のためその閉鎖を決定し、そこの営業をそのまま他に譲渡して譲受人による営業の維持継続を企図していたのであって、右特別決議を経なかったのは、被控訴人の譲渡にあたった関係者らの法の無知に基因するものであり、その決議が必要であることを知っていたならば容易に実現されたであろうと考えられること、被控訴人及び控訴人を除くその他の利害関係者の側においては、右譲渡後今日まで二〇年以上を経るのに右譲渡につき特別決議を経ていないため無効である等と問題にされたことはなく、右譲渡が有効として今日に至っているものと推認されること、控訴人は本件譲渡につき前記のとおり商法一八六条一項六号違反を主張し、それが認められない場合に備えて昭和五四年二月七日付準備書面においてはじめて同法二四五条違反を主張するに至ったものであり(これは当裁判所に顕著な事実である)、この主張の日までに本件譲渡契約締結の日からおよそ二十年近い歳月が経っていること、その他商法一六八条一項六号違反の主張が信義則違反にあたるとして揚げた原判決理由三(2)ないし(7)の事情を総合して勘案すれば、控訴人が商法二四五条違反を理由として本件譲渡契約の無効を主張することは、右違反に名を藉り、専ら本件譲渡契約に基づく債務の履行を拒むためのものであり、右主張をすることが信義則に反すると認められる特段の事情があるというべきであるから、この主張は許されないというべきである。従って、控訴人のこの主張も理由がない。
(鈴木 糟谷 渡辺)